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風雪と黒い光

風雪と黒い光

 和泉敏之


なぜ満足できないのか。なぜ人は欲の奴隷になるのだろうか。

奴らがあの機械を発明したのは2020年2月のことであった。あの機械を使えば、自分の身体を光に変えることができ、それは観測し 固定された黄泉の星へと送られる。目的地へ 光がたどり着くと、記憶された元の身体へその光たちは戻っていく。つまり 黄泉の世界へテレポートできるのである。奴らがどうして あの機械を作ったのか。奴らがどうやって あの機械を作ったのか。初めは 分からなかった。だがここに 1つの小さな話がある。


私たちは空を見ていた。天空に輝く星たちを眺めながら、言葉は発さず ただ 広角を上げて空を見ていた。この空から星が降ってくると考えてみた。その大きさはどのくらいになるのであろうか。私には想像もできない。ただここからは光り輝く 幻想曲として美しく 私たちを楽しませてくれているだけである。その星たちがもしも 脅威となるとすれば、どんな姿で牙を向いてくるのであろうか。


母マリアが夢の中である話を聞いたという。マリアの 弟 つまり私の叔父であるモーアからの伝言であった。現世で死者になっていない人間がこの黄泉の世界に来ている。母マリアは 怪訝そうに私たちに語ってきた。そんなことあるのであろうか。それは自然の原理というより、人の人生を取り巻く「世界」を壊してしまう状況だと考えた。マリアは不思議なことを言い出した。シンクロニシティ。みんなで 少しずつ 魂を取り出し、それらを光にして混ぜ合わせる。その混ざった光を私とマリア、そしてユキに再び 均等に戻していく。すると それらは 夢の世界で 私たちをつなげてくれるのだという。マリアは本当に不思議な力を使ってきた。世界を意図的に破滅に向かわせたこともある。私とユキのために。であるから、今回も その話を信じることにしてみた。夕方、娘の みゆには近くの居場所である エンデに行ってもらい、私たちはその魂を分け合う 儀式のようなものを終えて、ベッドに横たわった。すぐに眠りについた。レイニー ここだよ。ユキの声が聞こえた。確かに彼女がいた。成功したわね。マリアが笑っていた。


お久しぶりです 皆さん。ここは真っ暗なしかし 輝いているような、そうまるで 黒い光の中で 私たちはいるような、そんな状況であった。そこに1人の男が声をかけてきたのである。モーア。私たちが何度か対峙してきて、敵なのか味方なのかわからなかったが、しかし 結局は私たちを導いてくれるような そんな存在だとわかった、この モーアという男性。彼は言った。


一人の男が 黄泉の世界にやってきたのです。何でも自分の姿を光に変えて、その光を 黄泉の星にめがけて 移転 させ、その目的地で再び 肉体を戻したらしいのです。どうしてそんなことができたのか 黄泉の番人 たちは分からなかったのです。しかしそのような装置を使い、確かにあそこにいた。やつは科学者 のような出で立ちで、そしてどうしてここに来たのか、その目的を話すに至りました。息子を返してもらう。そう呟いたのです。


これにハッとしたのは私だった。息子という言葉で ビクッと反応したのである。少しずつ 暗闇に隠れた 話がその真相を明らかにしつつあった。シュタイン。かつて私とユキが倒した ジャックの父親である。ジャックとは 私たちの宿敵で、マリアを一度黄泉の世界へ放り投げた男である。殺害することによって。私はシュタインと話したことがある。事の真相は全ては明らかではなかったが、おそらくその時ジャックの幻影のようなものに私は真っ向から向き合うことになった。じゃあ あの時のジャックは? そう、シュタインは光を移動させて、黄泉の星の地下にある地獄からジャックと交信していたのです。ずっと長い間。そこで ジャックはある人物と地獄で出会った。その男性は研究者で、はるか昔の地球で、いや地球がまだ地球の形をしていなかった頃に、そのような装置を作り出す 化け物のような存在だった。その2人が地獄で出会うことによって。デビルね。マリアのその言葉に 私とユキは彼女を見つめるしかなかった。大昔の魔王よ。つまり。その生まれ変わりが・・私ですか? ユキが涙声で尋ねた。マリアはゆっくりと頷いた。そこで ジャックはシュタインに自分を黄泉 の世界へ送り込ませる、そんな方法を伝授したんだろう。


これが小さな話であった。この話はこれから始まる大きな話のプロローグに過ぎない。現世である 地球と黄泉の世界である黄泉の星。これらが果たしてどうなるのか 私たちの見当もつかなかった。ただ ジャックという人物を野放しにはできない。それがここにいる 皆の賛同する調停であった。もしかして? マリアは私を眺めた。これから黄泉の星へ行くの? そうよ。その通り。マリアとモーアが同時に答えた。しかし どうやって?


ここからは先の話の前撮りにもなるので少しだけ説明したい。つまり マリアはこの 時空と並ぶ 別の時空をかつて作り上げたのだという。そこでは 私もゆきも 離れ離れである。そして エンデはこの世に存在しない。マリアも現在は普通の人間である。黄泉の世界へ行ったり来たりはできないのである。だからもう一つの時空である その世界の私たちに全てを託すことにした。無論 その世界ではマリアは ただの人間ではない。ここから世界と世界を結ぶ 意思疎通が図られることになったのだが、それはまだ先の話である。




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